『しゃべれども しゃべれども』 

文:細谷美香
写真:源賀津己 


 
ロングセラー、至福の映画化
原作者も惚れ込んだ
国分太一の噺家ぶり 
  
落語って生きているものなんだなと実感しました 
 
どのシーンにも本のなかの世界が目の前にありました

古典にこだわりながら、自分の落語を求めて伸び悩んでいる二つ目の落語家、今昔亭三つ葉。そんな彼がひょんなことから、超がつくほど無愛想な美人、関西弁が原因でイジメられる小学生、口下手な野球解説者に落語を教えることになる物語『しゃべれども しゃべれども』。主人公を演じた国分太一と『一瞬の風になれ』の本屋大賞受賞でさらなる脚光を浴びる佐藤多佳子の対談が実現!   
 
佐藤> 国分さんの『火焔(かえん)太鼓』、すごくよかったです。お稽古では何が大変でした?

国分> やっぱり二つ目であるという部分ですね。落語を覚えて話すということは早い段階でできたのですが、前座ではなく二つ目としての落語を勉強するのが大変でした。ある程度しゃべり慣れていて、その先の壁にぶつかっている役柄なので、その部分を柳家三三(さんざ)師匠に徹底的に指導していただきました。

佐藤> 話のレベルをピンポイントでしぼっていく、大変な練習だったんですね。

国分> 練習中、師匠は僕の落語には絶対に笑ってくれないんです。だから撮影で『火焔太鼓』をやって客席から笑いが聞こえてきたときは、動揺しました。笑われることに全然慣れていないから、間がおかしくなってしまったんですよね。そういう意味で、落語って本当に生きてるものなんだなぁと実感しましたね。あのシーンは、ほとんど僕のドキュメンタリーみたいなものです(笑)
 
 
――国分さんはプロの噺家が嫉妬しそうなほど見事な落語を披露してますが三つ葉を演じたことで、言葉に対する感覚を磨くことにもなったのでは?
佐藤> 撮影が終わったいまでも、『火焔太鼓』は覚えてますか?

国分> なんとかしゃべれます(笑)

佐藤> 持ち芸にする気はないですか?

国分> 全然ないです。佐藤先生がたくさん取材をして思い入れを込めて書かれた原作ですし、高座に上がったとき、扇子で何度も叩いたことで出来た溝を見つけたんですね。そういう落語家の方の歴史を見てしまったら、少し練習をしただけの僕のような人間が上がってはいけない場所だと感じました。

佐藤> そういうお気持ちがあったからこそ、三つ葉という青年を素晴らしく演じてくださったんですね。落語に挑戦したことで、その後のお仕事に何か影響はありましたか?

国分> ひとりの表現者としていろいろなことを伝えたいと思ったとき、圧倒的に知っている言葉の数が足りないことに気づいたんですよ。最近は電子辞書を持ち歩いて、すぐに調べるようにしています。番組でご一緒している美輪(明宏)さんがきれいな日本語をたくさん知っているので、見習いたいですね。
 
 
――原作では武蔵野だった舞台は下町へ。原作にはない映画ならではの良さをどこに感じましたか。
佐藤> ちょっとクラシックな物語なので、東京の町をそのまま撮ると成立しない可能性があるんですよね。昭和の雰囲気が色濃くて、でも江戸ではない。平山監督は中途半端な古さが残る町を今の東京として本当にきれいに撮って下さって。どのシーンや俳優さんを見ても本のなかの世界が目の前にあるなとすーっと思えて、とても感動しましたね。

国分> 僕は三つ葉の不器用なところがすごく好きなんです。先生が思っている三つ葉には近づけていましたか?

佐藤> はい、もちろん。撮影現場で着物姿の国分さんをはじめて見たときからイメージにぴったりで、うれしかったんですよ。

国分> よかった(笑)。観たあとで温かくてやさしい気持ちになれる作品になっていると思うので、映画館を出たら、その気持ちをぜひ誰かに伝えてほしいですね。 
 

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